![]()
![]()
style : House
![]()
![]()
ブライトン、春。ファーストフードのテイクアウトを手に海辺で楽そうに身を寄せ合う家族連れを見ながら、ケイジド・ベイビーの名で知られるトム・ガンディはゆっくりパイント・グラスからビールをすする。窓の外を眺めながら「いろん国へ行ったな。もの凄く暑い国もあったし、素晴らしい様々な国へ行ったけど、やっぱり僕はここが好きだ。僕は生まれも育ちもブライトン、根っからのブライトンっ子だね。」と微笑む。
健全なヒッピーを親に持ち、ピアノとボートに囲まれて育ったガンディ。2人の兄弟は父親が営む魚屋を継いでいるが、トムは母方の系譜をたどる道を選んだ。「僕の母方の家系はみんなクラシックの音楽家で祖父もロイヤル・フィルハーモニックの指揮者だった。子供の頃は両方の家系が持つ情熱をくっつけて、ロックスターのヨットマンになろうと思ってた。サイモン・ル・ボンみたいにね!」
トム少年はかなり早い時期から人前で演奏する喜びを知った。8歳で既に学校のどの先生よりもうまくピアノを弾き、同級生を前にクラシックの賛美歌をジャムすることもよくあったとか。また同時に曲を書き始めるようになり「よくピアノの前に何時間も座ってたものだよ。そのうち連続した和音のフレーズを思いついて弾きながら、たまに歌詞をつけて歌ってみたりね」とトム。思春期が始まる頃にはクラシックの演奏発表会は徐々にローカルバンのライブギグへと変わっていった。この頃にはトムの創造性はどちらかといえば実験的な方向へ向かい始める。「僕の音楽はいずれも映画からの強い影響を受けている。『グーニーズ』とか『コクーン』といったクラシックスだね。1つの映画から音を取り出して、それを無音状態の別の映画の上に載せるんだ。音声アートといった感じだった。映画『悪魔のいけにえ』(原題Texas Chainswaw Massacre) の映像に"Song of The South(南部の唄)"を合わせたり、とんでもないものを作ったりしてたね」とトムは笑いながら話す。
もともと持っていたスキルに加え、アシュレー・スレイター、カット・ラ・ロックらミュージシャンの友人からの手助けで、トムのプロダクションはごく自然に発展した。「僕はよくラヴソングを作って遊んでた。フリーメイソンのパーティでおばあちゃん達を相手にピアノを弾きながらエルトン・ジョンを歌ったもんさ。でももうちょっとロックンロールぽいことをやらなくちゃいけないと気づいた。」
そうしてケイジド・ベイビーのペルソナが発達することに。例えるならアシッドハウスのスーパーヒーローとニューロマンティックの融合。ニール・テナントとファットボーイ・スリムの出会い。トーキングヘッズからトトまでの幅広い音楽からの影響を受け、ごきげんなサウンドがマーティーニを片手にスピーカーから飛び出す。でもなぜこんな名前(ケイジド・ベイビー=檻に閉じ込められた赤ん坊)?トム曰く「理想的な答えが聞きたい?それとも真実?いずれにしても地球とつながっていることと関係しているんだ。目に見えない命綱で僕らは自然環境に否応無く繋がれている。あるいは僕の楽曲がリリースされたらどうせケミカル・ブラザーズの隣に並べられるだろうから、そういう意味でこの名前にしたとも言える。まあどっちにしてもGoogleにこの名前をタイプすると小さな子供たちが檻に入っているような、いろんなヘンテコな写真が出てくるよ」
ケイジド・ベイビーの大きなブレイクは2002年にマイアミのウィンター・ミュージック・コンファレンスに思いつきで行ったのがきっかけ。そのとき『DJ』誌はまだ契約のない新人アーティストを密着・追跡取材するために探していた。最もトムが出没しそうな場所で『DJ』誌はトムに出会う。そう、パーティだ。デモテープの出来の良さに驚いたスタッフはマイアミでトムに密着、2ページの特集記事となった。ちょうどトム自身もリスペクトするレーベルにプロモを渡しまくっていた時期で、サザン・フライドももちろん見逃していなかった。「彼らの評判が好きなんだ。ちっともOK出さない頑固者ばっかりなんだろ?彼らがやっていたエクスクルーシヴのパーティに僕はなんとか入ることに成功して、そこで会った人間全員にデモを渡した」言うまでもなくサザン・フライドはケイジド・ベイビーに目を付け、最初の曲『スター』がダブルA面シングルとして『ベルリン』を片面に収録してリリースされた。
それ以降、トムには数多くのリミックス依頼が殺到、手がけたアーティストはオーシャン・カラー・シーン、ハー・マー・スーパースター、アーマンド・ヴァン・ヘルデンなど幅広い。そして現在、スタジオにこもって初のアーティスト・アルバムに取りかかっている。参加していているのはアシュレー・ビードル、ジャスティン・ロバートソン、そしてレーベルボスであるノーマン・クックだ。しかしケイジド・ベイビーが話題をさらっている理由は彼の楽曲のおかげだけではない。彼のDJはあっと驚くようなアブストラクトで並外れた曲やらエレクトロやら、かなり広いジャンルをカバーするセットでクラバーたちを感嘆させている。しかし感嘆しているのはクラバーだけではないようだ。「レーベル・ツアーでポルトガルに行った時、なぜか服を着たまま海に走り込んでた。気づいたら翌朝9時、子供用のビニールプールで怪しい女性に挟まれた状態で目覚めた」と周囲もあきれるDJらしい行動をしているようだ。
パブの外では雨がブライトンの舗道の小石を跳ね返している。テーブルの上に空のパイントグラスがたまってきた。トムがスタジオに戻る時間だ。最後に"トム・ガンディとケイジド・ベイビーは同じ1人の人間なのか?"という質問に対して、トムは混乱しながら「ケイジド・ベイビーは自分のやりたいことを明確にわかっているよ。何か変わった事さ」と答え、パブを後にした。
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()